【連載vol.2】イントロダクション その2 小さな勲章なんて捨てちまえ!

10年間努めた会社を辞め大好きなニューヨークにまずは二年間滞在する。それも違法滞在で。音楽が好きだった僕は毎晩毎晩ライブハウスに繰り出し、スタジアム級のコンサートに足を運び人生をエンジョイしていた。その二年間は僕の原点でもある。NYが僕を育ててくれたと言っても過言ではない。(この辺の半自叙伝は「NOTRAVEL,NOLIFE/須田誠著・A-WORKS刊 5刷・25000部」を参照)。

しかしある事がきっかけで帰国をすることになった。時代はバブル真っ盛り。会社員にはなりたくなかったが、お金もNYで使い果たしたし、働くしかチョイスはなかった。ニューヨークに二年住んでいて英語が話せるとハッタリをかましてレコード会社に入社。有名なレーベルの洋楽担当ディレクターとなる。そこでとあるマイナーなヘヴィメタルのギタリストをオリコンチャート初登場一位へと送り込み一躍有名ディレクターとなる。ヘヴィメタのギタリストが当時大ヒットしていたドリカムや久保田利伸を抑えての初登場一位は日本音楽史上初のできごとで業界は沸いた。

そして二年もバブルの恩恵にあやかり、楽しい生活を送っていたのだが、これもまた歴史に残るバブル崩壊という「時代」がやってくる。

誰もが羨む有名ディレクターから一転、地方の営業に左遷。おだてていたみなが手のひらを返したように態度を一変させる。はたとそこで気がつく。俺は何をやっているのだろうか。自分の人生を生きずに、何か周りや時代に翻弄されている自分がいるではないか。俺はなんなんだ。まったく自分というものがない。会社に所属していることに疑問を持ち退職することを決意する。

世界放浪の旅を決意する。
NYにいたころはなんでもできた。恐いものなんて何にもなかった。あの自由な気持ちを取り戻すんだ。俺は世界へ飛び出すんだ。たかが日本音楽史上で活躍した小さな勲章なんて捨てちまえ!

そして世界放浪の旅に出ようと計画するわけだが、たった半年だけ旅をして帰国してまた就職しようなどとせこいことを頭の隅で考えていた。二年間も日本の社会にどっぷりと浸かっていると、以前の保守的な人間に逆戻りしていた。それもバブル全盛期の世界でちやほやせれていた自分。担当のギタリストは日本一にしたのに、肝心な俺はバンドをやっていたころのロック魂なんぞどこかに消えていた。

そして逃げるようにして日本を去った。ところが世界に出てみると世界は思ったより広かった。

道は無数にあった。

教科書には書かれていないことで溢れていた。

誰の指し図も受けなくてよかった。

迷子になり放題だった。

それはそれは楽しかった。半年で全世界を周り帰国して就職する予定が、タイ、マレーシア、インドネシアを旅するだけで三ヶ月も経っていた。

旅を始めて三ヶ月、タイのバンコクへ戻るとき、トランジットで立ち寄ったシンガポールで僕の一生を左右する出来事が起こった。人生を変える出来事はなんの前触れもなく、予兆もなくやってきた。

つづく…

【Photo by Makoto Suda
NY滞在中に撮った摩天楼。コンパクトカメラで撮った写真。中央のビルはクライスラービル。

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