【本ができるまで #007】
タクシーはハバナ中心部へ入っていく。中心部は郊外よりもシネジェニックだった。そうフォトジェニックというより動画だ。ここは完全に1950年の映画のセットの中で俳優たちがキューバを演じているに違いないのだ。
断言しよう。これは現実ではないと。映画の撮影中なのだ。
もしくは2002年に搭乗した飛行機はタイムマシンだったかどちらかだ。
僕がウソをついていると思うならどっちなのか行って確かめてきてほしい。
タイムトリップできるのは旅の醍醐味だ。インドのゴアからハンピへと向かったことを思い出す。「ハンピはインディージョーンズの世界だぞ」とある旅人が言っていた。その一言で行くことを決めたことがある。巨岩、巨岩、巨岩に囲まれた村。あれも映画のセットだったのだろうか。
ともあれ俳優としてこのキューバという映画セットの中で一ヶ月間過ごすことになった。それも舞台はキューバ人の家に住む日本人マコトという設定。こんな濃い配役をいただいて嬉しい。そんな夢遊病のような状態でキューバの生活が始まった。
その前にこの話をしておかないと物語は始まらない。あるカップルとの出逢いだ。それがすべてのはじまりだった。
ハバナの海岸沿いにマレコン通りという両側6車線の広い道路がある。旧市街と新市街をつなぐ幹線道路だ。その海側には広い歩道があり、海面からだと3mぐらいの高さの防波堤があり歩道側に座れるようになっている。防波堤の下は岩場になっている。
キューバの一日は暑い。だから夕方になると人々は防波堤に夕涼みに来る。その美しい風は過酷だった一日を癒してくれる。
ブエノアイレ(良い風)。
生きていることを実感できる素晴らしい風だ。
お母さんと一緒に来ている小さな子どもが落ちてゆく夕陽に向かって言っている。
「アスタ・マニャーナ(また明日ねー)」
僕も毎日のように夕方になるとマレコン通りの防波堤に行っていた。そんなある日だった。
防波堤の下の岩場でキューバ人のカップルがナイロンの釣り糸一本で釣りをしていた。どう見ても本気で釣りをしている感じではない。いくらなんでも浮きも竿も無しでは魚からも丸見えで釣れるわけがない。
するとこちらに気がついた男性の方が声をかけてきた。
「こっちへきて見たらどうだ。おいでよ」
つづく…
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2017年秋、写真家・須田誠のキューバ写真集が発売決定!
WEB連載【本ができるまで】は本が完成するまでの物語。
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