【本ができるまで #0022】
そんな矢先編集のSさんからメールが入った。
「たいへん長らくお待たせしました。写真集につきまして、9月出版を目指してぜひ制作をさせていただきたいと社内で相成りました。今回のご縁を大切にしたい、また須田さんの熱い気持ちにお応えしたいと思っております」
やった!
YES!
ついに! 出版決定だ!
3月31日 雨
さっそく諸条件について話し合うために編集のSさんと、営業のMさんと東京で会うことになった。
この日は額装した写真を持っていくつもりだったのだがかなりの雨。しかしこの大事なタイミングで額装した本物の写真を見せておきたかった。これが写真なのだと。
濡れては困ると思ったが、次のタイミングではない。今回見せておかなければ。しっかりとビニールで梱包して濡れないようにして持っていった。幅が1mはあるので電車でも歩いているときも持ち運びが大変だった。
SさんとMさんとプレゼン以来の再会をする。そして印税、発売時期、今後の段取り、プロモーションなど主要な説明があった。
メジャーな出版社から出版する意味を考える。もちろんキューバ作品の全撮影が終わってからかなり時間が経っていたので途中では自費出版も何度も考えた。見積もりも取ってみたりした。自費出版というと独特なマイナー感がある。若干ネガティブな立場とでもいうか。
音楽の世界では当たり前の世界なのに本となると感触がまったく違う。CDなど音源をライブなどで手売りしたり、ネットで販売していく。それで沢山売っているアーティストもいる。もちろん写真集でもそういった販売方法でかなり売っている作家さんもいる。
インディペンデントのパブリッシング・レーベルからのフォトブック、リリースとか言えば、自費出版でもなんとなく雰囲気は良い。同じ意味でも印象が変わってくる。色々なやりかたはあった。
自費出版の方が、出版社を通すよりも自由に編集できるし、利益率も高いので儲かる。しかしデザインも内容も誰にも文句は言われない代わりにすべてを自分で決めて段取りしなければならない。楽のような苦痛のような。
しかし、個人で広告、宣伝、営業をやるには限界がある。コネクションもないし、47都道府県の書店に知り合いがいるわけでもない。一人では日本中の書店に営業に行くのは非現実的だ。
グーテンベルクが印刷技術を発明して聖書が世界中に広まったように、ライブだけが伝達方法だった音楽がレコードの出現で世界中に広まったように、メディアを広げるには手法が必要だ。
本を沢山売りたい。
「売れる」ということはイコール、僕のメッセージが沢山の人に伝わるということだ。有名になりたいなんてこれっぽっちも思っていない。そんなの面倒くさいだけだ。しかし作品は多くの人の手に渡ってほしいと願う。メッセージが伝わること。それが本を出すことの本質であるからだ。
だからメジャーからの商業出版にこだわりたかった。
*
ありがたい時間だった。
僕のメッセージを理解してもらい、出版してくださるということ。それに最大の感謝をしなければならない。本当にありがたい話だった。
*
ミーティングを終えてカフェを出る。まだ雨は降っている。しかし僕は晴れ晴れとした気持ちで傘を差し編集のSさんと一緒に歩きだす。
(え?)
Sさんは、傘をさすのはあまり好きではないと言い、ヤッケのフードを被り濡れながら歩きだした。
あー、この人信用できるなと思った。
つづく…
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