あの表情を撮るための出会い。写真集発売!

【2023年5月某日 ロケ撮影】
ロケ撮影当日。僕と渡辺君、メークさん、動画記録スタッフは東京駅の改札で待ち合わせた。

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実は遡ること数日前、スタッフ抜きで渡辺君と二人だけで食事に行った。都内で有名なハンバーグのお店。撮影当日に関する打合せ。詳細を詰めて、当日の撮影を滞りなく進行させるための打合わせの予定だった。

話は多岐にわたり、プライベートな話から、舞台のこと、旅のこと、映画、音楽、写真、そしてこれからのお互いの未来について。話は盛り上がり、あっという間に時間が経ち楽しい時間を過ごした。それはよいのだが、困ったことに撮影に関する全く話をしないまま終わってしまった。

「次の打ち合わせがあるのでそろそろ行かないといけないんです」

ラスト5分で撮影の打合わせをした。しかし、コンセプトさえつかんでいれば、旅のことを考え、意気揚々と、楽しく自由に振舞ってくれればいい。安心して好きに動いてくれていい。あとは僕がそれを逃さずにシャッターを切っていくだけなので。

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まず旅の出発といえば「駅」だろう。新幹線のホームでの撮影からスタート。

渡辺くんの表情がすっかり子どものようだ。なぜだろうあの大きな新幹線という乗り物を見ると誰もがワクワクするのは。きっとその先にある夢のようなものが無意識の中に発生するからではないか。その夢とはきっと旅行のことであり、遠距離恋愛のパートナーに会いに行くことであり、久しぶりに実家に帰省することだったり、出張で仕事を成功させることだったり。新幹線は人それぞれのまさに「夢」を乗せた乗り物なのだろう。渡辺君もスタッフもなんだか浮足立っている。きっとみんな楽しいのだ。

人は自分の顔を直接見ることができない。新幹線を見て、夢の駅でウキウキしている渡辺君の表情。それはもしかしたら僕が旅をしていたときの表情の再現なのかもしれない。僕は昔のボクの顔を見た気がした。

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次に東京駅から水素バスに乗ることにした。

写真集の役割の一つとしてその時代の記録がある。

昨年の夏の最高気温は40度。もう地球は引き返せない所まで来ていることは多くの人が知るところだろう。JR東日本が2050年度のCO2排出量「実質ゼロ」を目指して走らせているバス。それが水素バス。ガソリン、電気、水素など、それぞれ特徴があって賛否両論あるかもしれないが、そんな時代の最先端の乗り物の一つだ。今回のテーマでもある旅。時代の変化。そういう意味でも渡辺和貴と2023年の水素バスが写っていることが、写真集に何か意義を与えているのではないか。10年後にこの写真集を見直すとその意義がわかるはずだ。それが写真集の楽しみのひとつでもある。

その水素バスで次に向かったのは「港」だ。ウォーターズ竹芝。海を前に開けた青い空。気温も湿度も風も全て気持ちがいい。大きく晴れた五月晴れに渡辺君の口から自然に言葉がこぼれた。
「休みだー!って感じ!」

良かった。これが雨天だったらこんな素晴らしい笑顔は撮れなかっただろう。

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どこの国の船だろう。黄色い船が停泊している。他の船が出港し、遠く銀色に光るレインボーブリッジへ向かって白波を立てて進む。

港に設置されている双眼鏡でその船を見ながらはしゃぐ彼。
「ほら、みてくださいよ、あの船!」

どこまでも爽やかな風と潮の香り。大きな船、大きな橋、大きな海、大きな空、大きな雲。こどものような渡辺和貴の大きな笑顔。

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今回のロケ地ラストは「空港」。モノレールに乗って羽田空港第三ターミナルへ。ここは国際線の出発ロビーだ。

このプロジェクトが始まった2020年。その時は、僅かな空港関係者以外、人間の気配がしなかった。とても静かな国際線ロビー。人がいるわけがない。なぜならば飛行機は全便欠航だったからだ。人間が動くことが許されなかった時代。

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ところがどうだ、この日は沢山の人たちで賑わっている。色々な国の人達が集まった空港独特のバイブレーション。日本の旅は楽しかっただろうか。東京タワーは見えたかな。富士山には登ったかな。清水寺でおみくじはひいたかな。

スーツケースを転がす人、ゲートを探す人、スマホで友達と一緒に写真を撮る人、緊張している人、疲れている人、テンションが高い人、笑顔の人、寂しそうな人、泣いている人。出会いと別れ。こんなに色々な感情を持つ人たちが一同に介する場所も珍しい。空港はまるで人生の縮図のようだ。

昔からパンデミックなどという言葉はあったのだろうか。高度成長期、バブル、テロ、戦争、自然災害…未来には想定外の色々なことが起こる。未来は全く予想がつかない。

いや、昔から未来に何が起こるかは誰にもわからなかったのだ。1秒後のことだって明日のことだって先のことはわからない。そんなことは誰もが知っていたはずだ。2020年から急にそれが認知されたわけじゃない。もとより、自分がこの世に生を受けることさえ、父も母さえも知らなかったのだから。

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我々は展望デッキに向かった。外へ出るためのドアを抜けると一気に飛行機のエンジン音に包まれた。それは悪い音ではなかった。それだけで不思議とテンションがあがる。デッキの向こうにはたくさんの飛行機が間近に見える。その奥では機体を斜めにしてどこか海外へ飛び立つ飛行機、どこかの国から来て着陸しようとしている飛行機。あの重い飛行機が飛ぶという浮遊感はいつでも僕たちの心を軽くしてくれる。

また渡辺君の目が輝きだした。あの新幹線を見た時と同じ表情だ。
「うわー! どこか海外へ行きたいですねー。このままみんなでどこかへ行きましょうよ!」

本当だ。このままどこかへ行ってしまいたい。もう何年も海外へ行ってない。それは誰もが同じことだろう。そろそろ大きく動き出さなければ。それはここ数年の公演で苦労してきた俳優渡辺和貴の本音でもあるのだろう。

そして無事、ロケの撮影も終了した。あとはこの膨大な写真たちをどうまとめて写真集にするかだけだ。

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【2023年5月11日 幕は上がった】

開幕直前の5月8日。このタイミングで、かの小さな敵は5類へと引き下げられた。ニュースでは「観光客が戻ってきた」と繰り返し放映された。一時期はゴーストタウンだった銀座や渋谷や東京駅にも人が戻ってきた。外国人観光客も沢山見かけるようになった。しかしまだ電車の中では多くの人がマスクをしている。

5月11日。そんな混沌とした時代に幕は上がった。きっとこの時代のこの舞台のことは忘れることはないだろう。会場に貼られたポスターはまだマスクをするように促している。

もちろん来場者はみな言われなくとも常にマスクをしてくれている。そんな中来場者の方からこんな話を聞いた。

それは自分が感染しないようにというよりも、俳優さんにうつさないように配慮しているのだと。なんということだろう。ファンの人たちはそんなことを考えていたのか。テレワークなどが一般化した時代だが、オンラインではわからないことがある。人の思いというものは会って話をしてみないとわからないものだ。

マスクが賛否両論ある中、その本筋とは別に、マスクをすることが人の美しさを表していることでもあることを知った。まだまだ大変な時期にいらしてくださった皆様には感謝しかありません。本当にありがとうございました。

舞台上の俳優さんたちからも、その四角い白い人たちは見えていたことだろう。その布の下の気持ちは伝わっていたことだろう。

笑ったり、泣いたり、歓喜したりしている小さな機微も、僕の隣の人が目にハンカチを当てていたのも、きっと舞台の上からお客さんたちを見ていてくれたに違いない。

すべてが終わったような、終わってないような。それどころかほかのことも含めてますます世の中は混乱の様相を呈している。いつになったらこの中途半端な世界に終わりがくるのだろうか。もう以前のような良い時代はこないのだろうか。

いやとんでもない、もう、いつなんどきでも、誰でも、どこへでも行っていいのだ。自分の夢を叶えるために好きなことをやって生きていっていいのだ。

渡辺和貴が遭難しかけたシーン。最後に言った言葉。
「神様、僕はまだ歩き続けていいんですね」

そう、これを読んでいる人は生きている。この苦境を乗り越えて生きている。

あの時、妥協して就職したから、靴に穴が空いたから、大きな魚が釣れたから…そして各々みなさんの人生に起こった多々ある小さなできごとがあったからこそ、今、これを読んでいるあなたと出会えたのではないか。

もういいんだ。

さあ、動き出そう!

それを今回の舞台が、渡辺和貴が教えてくれた。
彼とこの時代に出会えたことに感謝して。

Move on!

さあ、この長かった連載もこれで最終回。この原稿を書いているのは9月だ。約4000カットの中からのセレクトを終え、デザインにはめ込んでもらい、全体の構成を整えて入稿だ。発売日は10月25日。同時にリリースイベントも行われる。

写真集をお買い上げいただいた方は、ぜひこの連載をもう一度読み直しながら一枚一枚の写真を堪能してほしい。

きっと前よりももっと渡辺君のことを好きになるに違いありません。そして写真集の最後に書かれた文章の中の「お気に入りの一枚」がどれか推測してみてください。わかったらSNSに「きっとこの写真だなー」と投稿してみてください。

すべてのことに感謝して。
ありがとうございます。

写真・文 須田誠

写真集「MOVE ON」リリース記念イベント、開催決定!
舞台「NO TRAVEL, NO LIFE」2023特別企画として、原作者須田誠が、須田誠役を演じる

渡辺和貴を撮影するプロジェクト「須田誠、スダマコトを撮る」2023。

その集大成として制作した写真集「MOVE ON」が10月25日にリリースが決定しました。写真集「MOVE ON」リリースを記念し、イベントを開催します。

https://t.livepocket.jp/e/moveon

◆開催日時
2023年10月25日(水)
20時30分スタート(20時オープン)

◆会場
原宿ストロボカフェ
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1丁目20−13

◆出演
渡辺和貴
須田誠

◆イベントプログラム
トークショー、サイン会

※本イベント内のサイン会へは、写真集「MOVE ON」をお買い求め頂き、現地へお持ち頂いた方が対象となります。
写真集「MOVE ON」は、当日会場でも販売を予定しています。

◆チケット料金

4,000円(別途1ドリンク600円)

「須田誠、スダマコトを撮る」2023
「NO TRAVEL,NO LIFE」の原作者須田誠氏が、須田誠を演じた渡辺和貴を撮影するプロジェクト

「須田誠、スダマコトを撮る」2023。

その写真集のタイトルは、「MOVE ON」!

内容は、舞台稽古、ゲネプロ、ロケ撮影と渡辺和貴の魅力満載の一冊。豪華100ページ越え!!
ILLUMINUS STOREにてご予約受付中!

👇写真集「MOVE ON」のご予約はこちらから👇

https://illuminus-store.com/items/64f6cb591bcd74002dc4da37

【写真集発売記念イベント】

舞台『NO TRAVEL, NO LIFE(原作:須田誠)』の主演俳優・渡辺和貴君を撮った写真集「Move On」が10/25に発売となります!

Move Onは、もう動こうぜ!っていう意味です。
もういいんだ。
握手しようよ。
ハグしようよ。
 
今回、撮影からレイアウト、構成、アートディレクションまでトータルで担当させてもらいました。めちゃ大変だったわ。
 
稽古+舞台+ロケと撮影した100ページ越え。自信を持ってお贈りしたいと思います!!
 
それに合わせて発売記念イベントも開催決定!
僕も渡辺くんとトークライブやります!
 
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▼10/25(水)20:30~
@原宿ストロボカフェ
出演:渡辺和貴 ✕ 須田誠
トークショー・サイン会を予定🖊✨
 
9/27(水)10:00よりチケット発売開始!🎫
👇イベントのご予約はこちらから👇
https://t.livepocket.jp/e/moveon

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舞台「NO TRAVEL, NO LIFE」2023ゲネプロ、メーキングレポート

【2023年5月10・11日 開幕直前/ゲネプロ撮影】

<ゲネプロとは本番同様の通し稽古のこと(ドイツ語のGeneralprobeゲネラールプローベの略)。衣装もメークも本番同様にオープニングからラストシーンまで、照明や音響なども含めて通して演じる。メディアなどを招待して記事を書いてもらうこともある>

ゲネプロのGENEは英語で「遺伝子」の意味でもある。“僕“須田誠と、”ボク“渡辺和貴は、兄弟でもなく、親戚でもなく、クローンでもアンドロイドでもない。今は全く同じ遺伝子を持つ同じ人間なのだ。2023年の”僕“と1994年の”ボク“が同時に今日、同じ空間に存在している。この世の中にこんなことはありえない。しかし僕の目の前にいるスダマコトは須田誠なのだ。

僕にしかわからない独特な不思議な空間と時間の開幕だ。今まで読んだどんなSF小説よりも面白い。1994年の僕がボクになって2023年に蘇り、僕の目の前で、約30年前に僕が発した言葉をリアルな声で再現する。

更にそれを僕が撮影する、今。

もういつが「今」なのかさえわからなくなってくる。

今、舞台で過去が蘇り、それを撮影した写真はすぐに過去へと飛び去り、それを写真集というタイムマシンに落とし込みまた未来で蘇らせる。

記憶はすぐに忘れ去られる。昨晩の晩御飯さえ忘れてしまうことがあるぐらい記憶は曖昧だ。どんな名舞台でさえ夢の断片のようにしか頭の中には残らない。しかし写真は残る。写真集はその瞬間の記憶を紙の上に刻み込み、先の未来へ送り出すタイムマシン。

舞台という空間芸術。雰囲気が確固たる形を作り上げている。

静寂な舞台。

役者はまだ姿を現していない。

カメラとスーツケースが置かれている。BGMに心地よい静かな空港の雑踏音が流れている。これ以上ない演出。

突然客電が消え、役者が現れ一人一人が語りだす冒頭のシーン。そしてジェット機の轟音とともに強いスポットライトがステージと客席を煽り。閃光に目を細めた瞬間、タイムマシンが動き出した。

望遠レンズ越しに渡辺和貴の顔を追いかける。人は自分の顔を外から見たことがない。しかし今、僕は、客席から時代を超えて昔のボクの表情を追いかける。右に左に前に後ろに駆け回る渡辺和貴。いやスダマコト。天を仰ぎ、うつむき、振り向き、ときに静かに、ときに叫び。彼の口から飛び出てくる放浪の哲学をカメラで捉える。

主役の彼も他の俳優同様に、一度たりとも舞台袖にはけない。特に主役は約一時間半の舞台で常に前面に立ち、休む暇は全くない。間断なく演技を続けなければならないので考えている暇などはない。普通の舞台であれば袖に引っ込んだ時に台本を確認したり、水を飲んだり、休憩したりできるが今回の舞台ではそれができない。スポットライトは彼を照らし続けた。

今回、そんな主役の心象風景と舞台背景をみごとに表現してくれていたのが照明だ。舞台は動き回る光で溢れていた。ウキウキしているときの輝き、心臓がドキドキするライティング表現、吹雪の強さと奥行き感、床に当たったライトさえもその場面を表現しているシーンもあった。その照明の効果とともに実際に旅で撮影した写真映像が加わり舞台が立体感を醸し出す。

マティスの絵は「色彩の魔術師」と表現されている。生きる喜び、あふれる色彩。まさにこの舞台の照明がそれを表現していた。稽古のときに見た小道具たちも照明の光を浴びてカラフルにマティスと化していた。

舞台は人生と同じように山あり谷ありで進行する。

高校三年の時。三者面談の緊迫した不穏な空気が漂うシーン。ボク渡辺和貴はうつむき厳しい表情。母親は心配そうに息子を思う。先生は呆れて、誰も望んでいない就職先を押し付けてくる。

先生「須田君は将来何になりたいのかな?」

僕は、子供の頃の自分を目の前にして泣くのをこらえていた。その葛藤と苦悩が演技からも伝わってきて、いたたまれない気持ちになる。いやいやこれは舞台であって仕事なんだ。感情移入している場合ではない。冷静に撮れと自分に言い聞かせる。

過去のボクに涙を見られないようにカメラで顔を隠し、仕事をするふりをしながら心の中で叫んだ。

和貴! そこで台本を書き換えろ! 先生の言うことなんて聞くな。就職なんてするな。今、俺の過去を書き換えろ! 今すぐ楽器を抱えて世界へ旅立つんだ! 和貴頼む、台本も観客も、演出家のことも段取りも全て無視して舞台の流れを変えろ。就職なんて無駄な回り道だ! 迷うな、間違えるな! 俺を救ってくれ。

しかしそんな想いが通ずるわけもない。舞台でさえも過去を変えることはできなかった。ボク、渡辺和貴は台本通り、就職して普通の人生を歩んだ。

バック・トゥ・ザ・フューチャーでもドクが言っていた。
「未来は自分で切り開くものなんだ」。

舞台は、始まってしまったら最初から最後まで突っ走るしかない。途中で段取りを間違えようが、失敗しようが、台詞を忘れようが引き返すことはできない。やり直しはきかないLIVEだ。それはまるで一度きりしかない人生と同じではないか。

スダマコトは挫折し、恋をし、成功し、また坐礁し、旅に出て、自分を見つける。道を間違えたかもしれない、方向を変えることもできたかもしれない、遠回りをしたかもしれない。しかし振り返ってみれば道は一本しかなかった。迷子になった道も、間違った道も、曲がりくねった道も、すべて正しい道だったのだ。

文・写真 須田誠

次回、ロケ撮影の生レポートへつづく。

「須田誠、スダマコトを撮る」2023続報

「NO TRAVEL,NO LIFE」の原作者須田誠氏が、須田誠を演じた渡辺和貴を撮影するプロジェクト「須田誠、スダマコトを撮る」2023。その写真集のタイトルが、「MOVE ON」に決定しました。
内容は、舞台稽古、ゲネプロ、ロケ撮影と渡辺和貴の魅力満載の一冊。豪華100ページ越え!!
ご予約は9月9日(日) 9:00〜よりILLUMINUS STOREにて開始いたします。

▶︎写真集「MOVE ON」のご予約について

予約サイト:ILLUMINUS STORE
https://illuminus-store.com/

予約日時:2023年9月9日(日) 9:00〜

また、9月9日は渡辺和貴さんのバースデーイベントも開催予定です!
会場では写真集「MOVE ON」のチラシも配布予定です。お見逃しなく!
詳細はこちら☟

かず茶 vol.10 〜渡辺和貴のお誕生日会。今年は 9 月にできました。

かず茶vol.10

◆公演日時:2023年9月9日(土)
1部13:00〜
2部17:00〜
*各部開場は開演の45分前

◆出演
渡辺和貴

◆MC
輝山立

◆ゲスト
<1部>
鈴木祐大

<2部>
坂垣怜次
湯本健一

(五十音順)

◆会場
BAGUS PLACE
(〒104-0061 東京都中央区銀座2丁目4−6 銀座 Velvia 館 B1F)

◆チケット
6,800円(税込)
*当日別途ドリンク代500円が必要となります。
※チケットは各部お1人様1回2枚まで。
※未就学児入場不可。
※営利目的の転売禁止。

◆イベントの詳細
https://kazuki-watanabe.com/contents/659210

◆イベントに関する問い合わせ
kazcha.info@gmail.com

舞台「NO TRAVEL, NO LIFE」2023~須田誠✕スダマコト~

あれから三年。僕たちは苦しい時代を生きてきた。人類が誕生したのは20万年前。この先、時間が仮に無限に続くことを思えば、この三年などほとんど無に近い、地球にとっては小さなニキビ程度の思い出に過ぎないのだろう。ネアンデルタール人の足に棘が刺さった痛みを僕たちが知る由もないようにニキビは忘れ去られ、消え去り、未来の人たちには懐かしさを感じさせ、これから地球に起きるもっと大きな出来事の中に埋もれ、年表から探し出すのも困難なほど小さな点として扱われるのだろう。しかし僕たちにとっての2020~2022年は、年表の上に大きく、太字で、赤く、かつマーカーで記録された。そしてまだその傷跡は癒えない。 

  

2023年。 

そんな時代に稽古は始まった。 

東京某所。 

彼はそこにいると聞いてカメラを持って赴いた。 

三度目の、写真家須田誠が主演俳優スダマコトを撮影するプロジェクト。 

その俳優は、渡辺和貴という男。 

舞台「NO TRAVEL, NO LIFE 」 2023

【2023年5月3日 稽古場】

ドアを開け稽古場に入ると沢山の関係者が各々の持ち場で動いていた。プロデューサー小宮山薫、演出家の吉田武寛、舞台監督、演出助手が二人、制作スタッフ、音響スタッフ。俳優陣は、堀海登、大谷誠、込山榛香(AKB48)、中村裕香里、馬嘉伶(AKB48)。そして今回の主演、スダマコト役の渡辺和貴。

稽古場は小道具が溢れていた。まるでマティスの絵「ピンクのスタジオ」と「赤の大きな室内」を掛け合わせたような美と乱雑さが融合した風景だった。

ハンガーラックにかかった何着もの衣装、リュック、スーツケース、ロープ、ギター、ベース、レコード、果物、魚、卵、コップ、ワインのボトル、花、ラジカセ、拡声器、帽子、お面、靴、手紙、紙飛行機、ハンモック、テント、杖、トレッキングポール、ほうき、海外のお札、新聞紙、パンフレット…そしてカメラ。それはまるで宝の地図を探しにきた盗賊が家の中を荒らしまくったあげく何も盗まずに去っていったかのような風景でもあった。

その理由は二つある。一つは役者が舞台から袖に一度もはけずに演技をするため、小道具が全て舞台上に配置されていることを想定しているためだ。全部観客に見えている状態になっている。二つ目は、一人の役者が何役もの役を担わなければならないので沢山の小道具が必要なためだ。

役作りだけでも大変だが、これらの小道具を間違いなく使いこなすのも大変だ。暗い舞台の中で一個見つからなかったら舞台が成り立たない。

稽古は続く。何度も何度も役者と演出家のやりとりが繰り返され舞台が少しずつ前進していく。セリフの言い回し、トーン、顔の向き、立ち位置、動きなど、繊細な確認をひとつひとつこなしていく。とても根気のいる作業だ。

前回同様にヒマラヤでの緊迫した遭難するシーンは重点的に何度も繰り返された。まだ稽古の段階にもかかわらず、遭難から生還したシーンを演じる大谷誠は涙を流している。全員の熱の入れように撮影しているこちらも胸が熱くなっていく。

僕は数メートル離れた位置から望遠レンズで撮影をしていた。ファインダーから目を離さず、僕の右目は獲物を狙うハンターのように渡辺和貴をとらえ続ける。望遠レンズを付けたカメラは重い。しかし一度でもファインダーから目を外したら良い表情を見逃してしまう。表情も動きも一瞬だ。それはスポーツの撮影と同じぐらい目が離せない。

この部屋の中で僕だけが渡辺和貴の顔を数十センチぐらいの距離に近づいているかのように見つめている。表情の一つ一つはもちろん、涙、皺、口の動き、指先、白目の毛細血管まで見える。

渡辺は、ヒマラヤのシーンでは瞳孔が開くほどの力強い目線と表情で白熱の演技を見せてくれていた。しかし彼なりの熟練したやりかたなのだろう、何度も繰り返す難しいシーンひとつひとつの台詞と動きを冷静に確認しながら演技を進めているように見えた。

ときに激しく、ときにクールに、ときに無言でうつむき、ときに遠くを見るような目で何かを考えている。かと思えば共演者と確かめ合い、冗談を言い合い、演出家に成果を問い、スダマコトと渡辺和貴を行き来していた。

彼の台本はすでにかなり読み込まれてしわくちゃになっていた。

今回の撮影は2020年のコロナ禍でのスダマコト撮影プロジェクトからストーリーがつながっている。あの苦しい時代を経て、今、僕たちはどう生きていったらよいのか。コロナ前よりも混沌とした、変動が大きく、複雑で不確定で曖昧な時代。不景気、貧困、少子化、医療、戦争、気候変動、災害、先の見えない不安定な未来。

スダマコトを撮るプロジェクトも単なる企画として撮るのではなく、背景にはしっかりとしたコンセプトを持たせ、舞台とも連動させてメッセージを伝える。それが主催者との共通認識でもあった。

『NO TRAVEL, NO LIFE』という本から発するメッセージを舞台で、写真集で表現していく。それが僕須田誠の役割であり、三人目のスダマコト渡辺和貴の役割であった。

そうやってこのプロジェクトは進んでいった。

次回、ゲネプロ撮影、ロケ撮影の生レポートとつづく。

文・写真 須田誠

舞台「NO TRAVEL,NO LIFE」2023特別企画!

原作者須田誠氏が、須田誠を演じた渡辺和貴を撮り、フォトブックとして制作する「須田誠、スダマコトを撮る2023」(仮タイトル)今秋発売予定!
須田誠氏の文章を含む豪華な内容となっています。


ご予約は9月9日(日) 9:00〜よりILLUMINUS STOREにて開始いたします。

▶︎「須田誠、スダマコトを撮る2023」(仮タイトル)フォトブックご予約について

予約サイト:ILLUMINUS STORE
https://illuminus-store.com/

予約日時:2023年9月9日(日) 9:00〜

カラフル/Coloful 森絵都さん

僕はけっこうじっくりと時間をかけて本を読み込む派なんだけど、これは一日で読んでしまった。冒頭がこんな感じだったから。

 死んだはずの僕の魂が、ゆるゆるとどこか暗いところへ流されていると、いきなり見ず知らずの天使が行く手をさえぎって、

「おめでとうございます、抽選に当たりました!」

と、まさに天使の笑顔を作った。

え?何この読み出しと思ってラストまで(笑)。

森絵都さんの本を初めて読んだ。いいかも。次は何を読もうかな。