誕生秘話。12月26日。僕の誕生日。
久しぶりに母に電話した。かなり昔に聞いてはいたけどすっかり忘れていた話をしてくれた。
「あなたが生まれた日、うちに泥棒が入ったのよ」
改めて聞くと、え?マジかと驚く。生まれたばかりだから僕と母はまだ病院。父は仕事で家には誰もいなかった。そこへ泥棒が入ったというわけだ。
「で、何か盗られたの?」
「カメラを盗まれたのよ」
今、この歳になってその話、初めて聞いたような気がする。カメラを盗まれただなんて。
なんだかスコーンと腑に落ちた。強烈にどこかへ引き戻されるようなフィードバック感。凹と凸がスパッと綺麗にはまって何かが形成された感じ。
帰還。懐かしさ。必然。納得。覚醒。
覚えてないのに浮かんでくる。カメラを盗られてカメラがなくなった自分の小さな家。
泥棒が持ち去り、どこへ消えたか時空のブラックホールにポーンと投げ捨てられた黒いハコ。
生まれてから何十年も後の放浪の途中。その黒いハコが時空の隙間からすっと現れ僕の右手に納まった。
シンガポールの名もないカメラ屋で生まれて初めて買った一眼レフ。しかし写真家になりたくて買ったのではない、カメラがやりたくて買ったのではない。安いから買ったのでもない。かっこ良くて買ったのでもない。
今、初めて知った事実。
蘇る事実。
あの時、カメラを買ったのではなかったのだ。
カメラが戻ってきたのだ。
僕の手に帰ってきたのだ。
すべての事象は、なんとなく、かつ不安定に、しかし確実につながっていた。
あらゆる出来事と今まで出会ってくれた人たちすべてに感謝。
2015年誕生日にて。
須田誠