【本ができるまで #009】
「引っ張れ、引っ張れ! オマエも一緒に引っ張れ!」
なんだかわからないが僕も引っ張った。ナイロンの釣り糸が指に食い込んで痛い。針が岩に引っかかってるんじゃないのか。魚だったらこんなに強くないはず。
女性も一緒に引っ張った。
三人で引っ張った。
そして信じられないことが起こった。魚がつれたのだ! それも30cmはあるであろう大きな魚。彼らも凄い笑顔で大喜びだ。ただごとならぬ喜び方をしている。僕もビックリした。
「おい、俺たちここで何年も釣りをやっているけれど、実は釣れたのは今日が初めてなんだ」
魚の大きさよりもそのことに驚いた。初めて釣れたのが今日だなんて。その目撃者が見ず知らずの日本人だったことも不思議な光景だった。
「オマエ、うちにきてこれを一緒に食べよう」
男性の名前をロネル、女性の名前はロサと言った。
これが彼らとの運命の出逢いだった。
* *
宇宙ができる前は「無」だったとどこかの本で読んだことがある。その後色々あって僕たちの祖先はアミノ酸から発生したらしい。よくは知らないが言葉も音楽も写真も知らないすごく小さなものだったのだろう。
なんとなく理解できそうな時代でいうと祖先は原始人だったらしい。それはそれは彼らの生活は大変なものだっただろう。恐竜とかがいたのだろう。ライオンとかじゃない、恐竜だ。
ずっと昔のおじいちゃん、おばあちゃんが奇跡を起こしながら縄文時代や、鎌倉時代や、戦国時代や、江戸時代や、大きな戦争などをくぐりぬけてきた。
そして僕が生まれ、世界を旅してキューバにたどり着き、釣れそうもない海で初めて魚がつれたというキューバ人と出会った。
こういうことをなんと呼んだらよいのだろうか。
偶然、運命、巡り合わせ、たまたま。40億年前の僕のアミノ酸とキューバ人のアミノ酸のしわざ。
「世界は教科書には書かれていないことで溢れていた」
つづく…
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2017年秋、写真家・須田誠のキューバ写真集が発売決定!
WEB連載【本ができるまで】は本が完成するまでの物語。
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