【本ができるまで #0012】
そうやってダミー本という第一号の写真集が完成するのです。
その自信作を持って、
「よーし! 今日こそは一発で出版を決めて帰るぞ!」といざ出版社さんへいざ出陣するわけです。
その場でOKが出て、いきなりサインとなると困るので万年筆も持参しています(実際には日本はサインじゃなくてハンコなので万年筆は不要なんですけど(笑))。この万年筆はお守りみたいなもの。実は生徒さんたちから出版が決まったらこの万年筆でサインしてくださいとプレゼントされたものなのです(まだ出版など全然決まっていない時に)。
どの出版社さんも誠意ある対応をしていただき、現状などを話してくださり、アドバイスなどもしていただき感謝しています。結果としてはいずれも断られたわけですが学ぶところが多い体験でありました。
物事はなんでもそうですが、必ず意味があるものです。この体験あっての今なのだと思います。だから失敗しても、断られても、そのことに感謝しています。
実際にプレゼンに行くと、どこの出版社さんでも同じことを言われました。
作品は良いし、テーマも素晴らしい。ただこの出版不況時代、芸能人でもないし、有名人でもないし、テレビにも出ていない作家さんの作品は出しても売れないというのが現実だと。
SNSのフォロワーが10万人いれば内容がどうあれ出せるようなことも。ユーチューバーやインスタグラマーもそうですよね。それも時代なので否定はできません。
出版とは、この世に残さなければならない作品を気概を込めて出版することが本来の姿だと信じています。売れればいいというものではない。グーテンベルクが印刷を発明し、聖書を世界中に広めたように歴史的にとても重要な任務を担っているのが出版社だと思っています。
しかし、今は2017年。出版不況時代ではそれは理想論かもしれません。理想とビジネスは相容れないものかもしれません。それもわかります。売れない本を作って倒産してしまっては元も子もないわけですから。
資本主義である限り、制作と販売のせめぎ合いは常でしょう。原価と売上。価値と売上。芸術とビジネスの兼ね合いはいつの時代でもあったかと思います。じゃ、価値ってなんだろうって深い思いにも至ります。それについてはまた改めて問うことにして。
しかし現実は現実。各社の事情や方向性や決まりがあるのですから断られたものは仕方ない。それなりの理由があるわけですから。
6社に断られたから落ち込んでいたかというと全くそんなことはありませんでした。挫折でもしていたらいいネタになるのですがとても楽しかったです。落ち込むどころか何故か意気揚々としていました。失敗すればするほどパワーが湧いてきたぐらいです。
なぜ断られてもハイな状態だったかというと、完全に自分を信じていたからだと思います。この本を出す必要性を100%感じていて、絶対に出せると思っていました。そこにはなんの迷いもなかったからです。
いや、「絶対に出せる」とさえも思っていなかったかもしれません。すでに頭のなかでは発売されているビジョンで望んでいたので不安など皆無でした。未来のことが既に現在で過去になっていたとでもいうのでしょうか。
僕の大好きな現代美術家で大竹伸朗さんという人がいます。彼の本に「既にそこにあるもの」と素晴らしい本があります。
そうです、未来の何処かにすでに僕の本はあるのです。もう原始時代からもう出版の話は決まっていたのです。6社に断られることも決まっていたのです。5社でもなく、7社でもなく。寸分狂わず6社だったのです。
ですから何の疑いもありませんでした。各社のプレゼンも楽しいものでした。
いつ既にそこにある出版社が目の前に現れてきてくれるのだろうとワクワクしていました。
つづく…
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2017年秋、写真家・須田誠のキューバ写真集が発売決定!
WEB連載【本ができるまで】は本が完成するまでの物語。
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